立春ですね。
節分の日は、驚くほど過ごしやすい気温だったのに、また寒さが戻ってくるとか。
こちらの地方、そう簡単に春になってはもらえそうにありません。
「先生が教える小学校と勉強」の風路でございます。
さて、私は時々、演劇であるとか、音楽であるとか、美術であるとか、そういった総合的に「芸術」のジャンルに属する話をお伝えすることがあります。
これは、私の趣味の世界以上に、今の仕事と深いところで結びついている事実があるからなんですね。
今から15年以上も前のことになりますか、私のクラスにアイルランドからの帰国子女の少年が転入してきたことがあります。
6年生のこの少年の姉の方は、まだ、日本語がスムーズに読み書きできたのですが、彼は日本の小学校に通うのが初めてで、普通に話せても、読み書きは英語の方が得意なようでした。
いえ、英語というよりゲール語(アイルランド語)だったかもしれません。
彼は、父親の仕事の関係で幼稚園に入園する前に、あちらの国に行ったようで、現地(ダブリン)には日本人学校はなく、週に一度通う日本語補習学校というところで、日本の教育に関連する学習をしていました。
彼が育ってきたアイルランドという国がどのような国なのか、その歴史的な背景などを知る機会になったのが、このときでした。
イングランドとアイルランドという共にケルト文化を持つ兄弟のような関係だった二つの国はローマ帝国がイングランドを占領したときから、文化的な共通性がなくなっていくんですね。
現代に至るまでの2国間の様々な事件は、大学の研究文献のように少々難しく、重い事実に、覆い尽くされている。そんな感じです。
独立があったり、対立があったり、あまり強い宗教性を持たない日本人には、信じられないような宗教関連の対立があったり・・・。
そのアイルランドを描いたミュージカルを2つ観たことがあります。
その一つは、1994年に宝塚の月組により上演された「エールの残照」。
このとき、「アイルランドの独立」「アイルランド義勇軍」という言葉やこのお芝居の内容から、宝塚的オブラートに包まれたフィクションであるとはいえ、「イングランドとアイルランド」の歴史的事実を知るきっかけになりました。
トップスターの天海祐希さんが「シャムロック伯爵」という役を演じ、谷村新司さんが作曲した「風のシャムロック」というテーマ曲が、とても印象的だったことを覚えています。
「ルーラ ルーラ ルラー」という歌詞が繰り返される「アイルランドの子守歌」も。
古くからの宝塚ファンの方で、覚えておいでの方も多いのではありませんか。
このとき、「シャムロック」というのが、アイルランドにたくさん見られる三つ葉のクローバーだということを知りました。
さて、ここから長い時を経て、2006年に嵐の櫻井翔さんによって演じられ、そして今現在新国立劇場で上演中の「ザ ビューティフルゲーム」。
「エールの残照」で取り上げられた時代から、1969年の時代へと変わってはいるもののさらに、深く重いテーマを持つミュージカルでは、あります。
休みの日に、これを拝見してまいりました。
IRAという北アイルランドの独立を訴える過激派組織とその行いについては、まさに私たちの生きている時代の出来事であり、ニュースを耳にした方もいらっしゃるでしょう。
サッカーに熱中する高校生たちが、テロに巻き込まれ、途方もなく重い未来へ進んでゆく。
胸にズシンとくるような、後半はなおさら重めのこの物語を、さわやか青年たちが演じているのが、絶妙なバランスと言いましょうか。
音楽は、「オペラ座の怪人」のあのアンドリュー・ロイド・ウェーバー。
心に残るナンバーが多いですね。
小劇場のセンターに舞台を作り、至近距離で客席がそこを取り囲む形。
ステージ上だけではなく、客席の通路での演技もあり、演じる俳優さんたちは、一瞬も気が抜けないだろうなあ、とお察し致します。
物語のスタート時にサッカーボーイズたちが登場の際、平方元基さん演じるデルだけが、オレンジ色のTシャツを着ています。
ほかの皆さんがグリーンのTシャツなので、とても目立ちます。
たぶん、この色分けの意味を十分に理解されていないとおぼしきかなり若い女の子が、
「平方さんって、オレンジも似合うのね。でも、なんで、彼だけ目立つ色のTシャツ着てるの?」
という発言をしているのを、幕間に耳にしました。
ええ確かに、スリムで長身の方ですし、グリーンの中にオレンジは目立ちますけど、これの意味するところは、そんなに軽いものじゃあないんですよね。
グリーンはカトリック、オレンジはプロテスタントを意味し、その宗教的対立の象徴だったわけですから。
アイルランドの国旗。あの色分けです。国旗の真ん中の白は、両派の調和と強調を表しています。
一人一人の俳優さんがご自分の演じるキャラクターの人物像をきっちりととらえて、表現されていましたが、この中では少数派のプロテスタントを演じる平方さんもまた、カトリック派の少年たちに何を言われても、「そんな宗派で左右されるのはおかしい。自分たちはスポーツをしてるんだ。」というぶれない姿勢を持つ青年を、しっかりと描いていらっしゃいました。
今回は、彼が単独で歌う場面は多くはありませんでしたが、丁寧な歌い方をする、さわやかな歌声のミュージカル俳優さんで、「船に乗れ」の時には、フルートのための楽曲を人が歌うという難しい課題をクリアし、きれいに歌い上げていたのが印象的でした。
一般的に、ミュージカルの劇場に足を運ぶのは女性の方が多いのですが、このミュージカル、男性、それもそう若い方ではない男性も客席に目立ったのが、特徴的でした。
参 考